【ペット・車の被害】財産を侵害された場合に慰謝料は請求できるか。

人身被害がない場合に慰謝料はもらえないのか

交通事故で幸いにも怪我がなかった場合でも、愛車に被害を受け、事故処理対応や修理期間の不便などの不利益を被ります。このような場合に慰謝料は請求できないのでしょうか。

ー 目次 ー

物損の慰謝料の考え方

人身被害のない物損(財産権侵害)のみの場合、裁判実務では基本的には慰謝料の請求を認めていません。
財産の損害が回復されれば、精神的苦痛も回復されると考えられているためです。
例外的に慰謝料が認められるためには、財産損害の回復だけでは足らないような、特段の事情が必要であると考えられています。

最高裁昭和42年4月27日判決では、財産上の損害だけが生じていたケースの慰謝料について、「そのほかになお慰藉を要する精神上の損害もあわせて生じたといい得るためには、被害者が侵害された利益に対し、財産価値以外に考慮に値する主観的精神的価値をも認めていたような特別の事情が存在しなければならない」と判示しています。

主観的精神的価値をも認めていたような特別の事情とはどのようなものをいうのでしょうか。
参考になるのが以下の裁判例です。

東京地裁平成元年3月24日判決では「財産的権利を侵害された場合に慰藉料を請求しうるには、目的物が被害者にとって特別の愛着をいだかせるようなものである場合や、加害行為が害意を伴うなど相手方に精神的打撃を与えるような仕方でなされた場合など、被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害するような特段の事情が存することが必要であるというべきである。」と判示しています。同判決では車両損害のみの事故でしたが、被害者の慰謝料請求を認めませんでした。
同判決では特段の事情の具体例として、被害者の「愛情利益」や「精神的平穏」を「強く害する」事情が必要としています。
そのため、被害を受けた財産自体に強い愛着があることや、財産を侵害されたことで精神的に大きな打撃を受けたことが必要になります。
だれしもが車両という財産に対して愛着や、壊されたことによる精神的平穏が害された事情はあると思いますが、ここでいうところの強く害する事情というのは、かなりの高程度を要求されます。
車両にどれほどの愛着をもっていたとしても、裁判所は慰謝料については否定的です。

物損で慰謝料が認められているケースでは、住居に車両が侵入したケース、当て逃げされたケース、墓石が倒壊したケース、芸術家の作品を毀損されたケースなどです。
つまり、高度の精神的平穏が求められる場所や代替性のない物が侵害されたり、加害者の故意又は犯罪行為による事故など極めて悪質なケースなどで例外的に慰謝料が認められています。
基本的に財産侵害に伴う慰謝料請求については、裁判所は否定的です。
物損事案で争いになることがありますが、よほどのケースでない限り、難しい傾向にあるかと思います。
ただし、例外なのが、以下で取り上げるペットの被害の事例です。

ペットが被害に遭った場合に慰謝料請求はできるか

ペットについては、裁判実務上は財産のひとつとして考えられていますが、慰謝料が認められているケースが多々あります。
ペット自体の財産的価値や、飼育年数などの飼い主とペットの関係、事故態様などに照らして賠償額を認定しているようです。
ペットが一般的に家族同様に扱われている事情などを考慮し、財産価値以外に考慮に値する主観的精神的価値があると考えられていると思われます。

大阪地裁平成27年2月6日判決
散歩中のチワワが、不十分な管理により逃げ出したシェパードと接触して心不全で死亡したケースで、国際公認血統証明書付きであったこと、約15年間家族の一員として飼育されてきたこと、チワワの購入額などに照らして、18万円の慰謝料を認めた。

東京地裁平成24年9月6日判決
ポメラニアンが貨物自動車に轢かれて死亡した事例で、事案の性質にかんがみて、慰謝料10万円を相当として認めた。

ペットが被害に遭った場合、慰謝料請求できる可能性があります。
ペットは家族の一員です

ペットが死亡したケースでは、慰謝料だけでなく、火葬関係費、葬儀代も認められている裁判例があります。

物損で慰謝料請求をする方法

物損で慰謝料請求が難しいことは上述したとおりですが、それでも請求する場合、積極的な立証が求められます。
たとえば、愛情利益を侵害されたと主張する場合は、その財産を保有した年数・大切にしてきた歴史・エピソード・関わりあい・精神的苦痛の度合い・財産的価値などを具体的に立証する必要があるでしょう。その財産を保有時の証明書、購入契約書、つながりを示す写真・動画などが考えられます。
精神的平穏を害されたと主張する場合は、事故態様と被害の大きさに重点を起き、事故時の写真や被った財産の状況、それによって影響を受けた日常生活の場面などを具体的に説明することになります。
保険会社との示談交渉では、物損の慰謝料を認めてくることはほぼありませんので、裁判所に訴訟提起をしていくという方法論になろうかと思います。
裁判所は基本的に物損の慰謝料については否定的ですが、理由が全くないとは言えない場合、その他の損害項目の中で裁量的に認める可能性があります。


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