【新車の被害】評価損の争い方と請求方法

評価損の請求はシビア

新車で購入後、間もない時点で事故の被害に遭った場合、評価損を請求できる可能性があります。
ただ、実務的にはかなりシビアな請求になるので、根拠をよく理解した上で立証が必要となります。

ー 目次 ー

評価損の請求根拠

(1)評価損とは?

車両が事故にあうと事故車となり、機能的又は商品価値的に価値が減少することがあります。
これを評価損と呼んでいます。修理代とは別に損害を受けていることになるので、減価した額を損害として請求しうるということになります。
実務的に争いになるのは、新車や外車などの高級車などのケースです。
事故にあえばどのような車でも事故車として価値が落ちそうなものですが、全てのケースで認められるわけではありません。
むしろ評価損が認められるケースは限定的となっています。

(2)評価損の根拠

評価損は、技術上の評価損と取引上の評価損とに分けて考えられます。
技術上の評価損とは、修理によっては回復できない機能や外観の欠陥が生じているときに価値の減少が生じていると考えるものです。
取引上の評価損とは、事故車扱いとなることで、その車両の中古車取引にける商品価値の減少が生じていると考えるものです。
そのため、技術上の評価損については修理では回復できない機能の欠陥が生じていることを立証しなければなりません。具体的には、事故により車両の骨格に重大な損傷が生じていることなどを立証する必要があります。
取引上の評価損については、購入からの経過期間、走行距離や車種、国産車又は外車かといった要素を考慮して、評価損が発生しているか検討されることになります。ただし、取引上の評価損を否定する裁判例も多数あります。

実務的には購入から3年以上経過している車については、評価損が認められる可能性は低い傾向にあります。新車登録間もない車であるほど認められやすくなる傾向にあります。
そのため、評価損が認められやすくなる条件としては、骨格に重大な損傷が生じており、新車登録3年以内という車両になります。

評価損の請求方法について

(1)修理見積書を確認しよう

評価損の請求をするためには、骨格等の重大な機能に回復困難な損害が生じていることを立証する必要があります。
修理工場から「修理見積書」又は「請求書」という題名で、修理部位が項目ごとに記載されたものが入手できます。
その中に骨格の修理が含まれているか確認しましょう。
具体的にはフレーム(サイドメンバー)、クロスメンバー、インサイドパネル、ピラー等の修理が含まれいないか確認しましょう。骨格の詳しい説明については日本自動車査定協会のサイトをご参照ください。
なお、バンパーの損傷は一般的には骨格の損傷には当たりません。ねじ止め又はツメでかん合されており、交換可能であるため、修理による機能上の損害が生じないためです。

(2)証拠を集めよう

車両の価値に減価が生じている場合、減価分を具体的に査定書などで証拠化する方法があります。
たとえばディーラーで事故前の下取り価格と事故後の下取り価格の見積りを作ってもらう方法や、有料ですが日本自動車査定協会に評価損の査定をしてもらう方法があります。
ただし、これらの証拠について裁判所の取り扱いとしては、あくまで参考資料というレベルで、減価額そのものが認められるケースはかなり少ないと思われます。
どちらかというと骨格に損傷が生じていることを具体的に修理業者などに証明してもらったほうが、効果的かもしれません。

車の仕組みを理解しなければなりません。

評価損が認められる場合の金額

評価損が認められる場合、修理費額の●%という形で損害が算定されることが多いです。
そして、判決にいたっても、修理費額の30%以内に収まることがほとんどです。例外的に修理費の70%以上を認めているケースもありますが、極めて稀です。
なお、保険会社との示談交渉では評価損は基本的には否認されるため、裁判までいかないと請求が難しいケースが多いと思われます。

リース車両の評価損の請求可否

評価損を請求できるのは、被害を受けた車両の所有者です。
リース車両などの貸与を受けている車両は、リース会社に所有権が留保されているため、裁判例の傾向としては使用者の評価損の請求に消極的な傾向にあります。
最近でも大阪地裁令和3年2月16日判決では、本件事故による被侵害利益である所有権は本件リース会社に留保されており、評価損に係る損害賠償請求権を行使できるのはリース会社であるとしています。
特に残価設定型の自動車リース契約が増えていますが、基本は「借りている」だけであり、所有権があるわけではないため評価損の請求は難しいと考えられています。
例外的に評価損請求を認めた事例もありますが、リース車両について評価損請求を行うのであれば、リース会社から損害賠償請求権の譲渡を受けるなどの方法が考えられるでしょう。

評価損に関する裁判例

東京地裁平成22年12月8日判決 1年程度の車両を比較的新しいと評価
外国車の被害車両について事故時、初年度登録から1年程度経過した車を「比較的新しい車両」であるとし、損傷箇所と修理費用が高額にのぼることから、走行距離が約2万キロメートルとやや走行距離があるという事情を考慮に入れても,評価損を認めるのが相当とした。

東京地裁平成22年11月10日判決 骨格に損傷が及んでいないケースで評価損を認定
登録から1年4カ月経過したアウディー(走行距離は870km)について、修理箇所が車両の骨格部分には及んでいないとしながらも、修理費用の15%の評価損を認めた。

岡山地裁平成18年1月19日判決 自動車査定協会の減価評価によらず、修理費の割合で評価損を認定
日本自動車査定協会の事故減価額の査定資料について、これを一資料としつつ、損傷の程度、車種、初度登録からの経過期間、走行距離を総合考慮して、評価損として修理見積額の約二割を認めた。

大阪地裁平成12年9月6日 自動車査定協会の減価評価の査定を考慮
日本自動車査定協会が事故減価を三七万三四〇〇円と査定したことをふまえ、損傷の状況や修理見積もりから減価が生じていると考えることが相当であり、その額は同額を下らないとした。

評価損を請求するのであれば、請求が可能かそれとも難しいのか、専門家の意見を仰いだ方がよいと思われます。
その際は、修理見積書、車検証、走行距離がわかる資料などを併せて提供しましょう。