【被害者請求】自賠責保険に請求するために必要な書類と手続

自賠責保険への請求手続

加害者が任意保険に無加入の場合、被害者としては人身損害を自賠責保険に請求することが確実な手段になります。
また、自己の過失が大きい場合、相手方ではなく自賠責保険に請求したほうが過失相殺がされずに得になることもあります
ここでは、自賠責保険への請求に必要な書類リストや集め方、手続について説明します。
なお、無保険者からの回収方法については、【無保険】事故の相手方が無保険で支払わない場合の回収方法で案内していますのでそちらもご参照ください。

ー 目次 ー

自賠責保険の請求方法と必要書類リスト

(1)自賠責保険の請求方法の基本

事故により負傷した場合、治療費や交通費、慰謝料について、自賠責保険に保険金を請求することができます。
請求方法には、加害者請求と被害者請求という2種類の方法があります。
加害者請求とは、加害者が被害者に賠償金を支払った後に、加害者が保険金を自賠責保険に請求する方法です。
被害者請求とは、被害者が直接自賠責保険に保険金を請求する方法です。
自賠責保険の限度額としては、傷害分が120万円、死亡事故の場合は1名あたり3000万円となっています。後遺障害に関する限度額は等級ごとに定められています。

請求方法としてはさらに「本請求」と「仮渡金」に分かれます。仮渡金とは、加害者から賠償を受けていない場合に、自賠責保険会社から前払金の支払いを受ける方法になります。

(2)自賠責保険の請求に必要な書類リスト(被害者請求/本請求)

自賠責保険に保険金を請求するためには、基本的には以下の書類が必要となります。
これらの書類の原本を揃えて、自賠責保険に提出することで、審査の結果、保険金が支払われます。

自賠責保険に提出が必要な書類リスト
・支払請求書 ※
・請求者の印鑑証明書
・交通事故証明書
・事故発生状況報告書 ※
・診断書、診療報酬明細書 ※
・施術証明書 ※
・通院交通費明細書 ※
・休業損害請求書 ※
・後遺障害診断書(後遺障害が残存した場合) ※
・レントゲン・CT・MRI画像(後遺障害の等級認定申請する場合)
・死亡診断書(死亡事故の場合)
・戸籍謄本(死亡事故の場合、被害者が未成年で親権者が請求する場合)
・世帯全体の住民票(家事従事者の休業損害を請求する場合)

※自賠責保険用の書式があります。自賠責保険会社から入手できます。

請求に必要な書類の集め方

(1)事故証明書を入手しよう

自賠責保険に請求するためには、相手方がどこの保険会社の自賠責保険に加入しているかを知らなければなりません。
相手方が加入している自賠責保険は、「事故証明書」に記載されているため、まずは事故証明書を入手することになります。

交通事故証明書の発行は、自動車安全センターに申請して行います。
申込方法は以下の3種類があります。
交通事故証明書申込用紙を警察署でもらい、郵便局で申し込み
②自動車安全センターの窓口で直接申請用紙に記入して申し込み
③自動車安全センターのネットから申し込み(https://www.jsdc.or.jp/accident/tabid/119/Default.aspx)
交付手数料は1件につき600円です。

(2)自賠責保険会社から書式(パンフレット)を取り寄せよう

前(1)で発行された交通事故証明書で、相手方が加入している自賠責保険会社を確認しましょう。
交通事故証明書には、「甲欄」と「乙欄」があり、それぞれ事故当事者の氏名、住所などが記載されています。
この中で自賠責保険関係・証明書番号という項目がありますので、当事者の自賠責保険会社名が確認できます。
自賠責保険会社名が確認できたら、同保険会社に連絡して、自賠責保険会社から自賠責用の申請書式が入ったパンフレットを取り寄せましょう。
被害者請求の場合は、相手方の自賠責保険会社が申請先になります。
パンフレットには、自賠責用の診断書・診療報酬明細書、施術証明書、事故発生状況報告書等の様式が入っています。
こちらの用紙を利用しないと、原則として受け付けてくれないため、書式の入手が必要です。

(3)自賠責保険の請求書式の揃え方

(ア)事故発生状況報告書の作成方法と注意点

事故発生状況報告書は、事故の状況を自分で図面化して作成するものです。
事故発生時の見通し、車の速度、信号又は標識の有無などを記載します。
注意点としては、過失などで争いがある場合、これも証拠資料になるということです。
事故発生状況報告書は自認している事故状況です。そのため、記載された速度などの情報は、それが自分に不利な内容である場合でも、証拠とされてしまう可能性があります。
また、事故現場の見通しなども過失割合に影響してくる要素になります。(見通しが影響してくる場合などについては、【過失割合の基本】交通事故での過失割合の争い方で詳しく解説しています。)
そのため、事故状況についてはできる限り正確に記載しましょう。
不意に追突された場合など、相手方の速度がわからない場合は、「不明」という記載で差し支えありません。

(イ)診断書・診療報酬明細書・施術証明書の作成方法

診断書・診療報酬明細書は、病院又は整形外科で作成するものです。
施術証明書は接骨院で作成するものです。
これらの中に、具体的な診断名・治療内容・要した治療費用などが記載されています。
そのため、それぞれの書式を病院又は接骨院に持っていき、治療期間の分を作成してもらいましょう。
病院側でも接骨院でも、書き慣れていますので、引き受けてもらえます。
1枚の用紙で最大で3か月分の治療期間に対応できます。そのため、治療期間が長期に及ぶ場合は、複数枚の書式を用意して作成をお願いしましょう。診断書・診療報酬明細書は入院と入院外のもので書式が異なりますので注意が必要です。

病院の窓口に書式を提出する
病院の窓口にお願すれば、受け付けてもらえます。

(ウ)通院交通費明細書の作成方法

通院交通費明細書については、医療機関に通院した交通費を請求するものです。
タクシーを利用した場合は、利用した年月日、通院区間、要した費用、病院名を記載して、領収証を添付します。
公共交通機関を利用した場合は、利用交通機関、通院期間、通院日数、往復交通費、病院名を記載します。
自家用車を利用した場合は、通院した日数と自宅から病院までの距離を記載します。
距離については、たとえばGooglemapで病院への自宅からの経路を検索すると、距離が表示されますのでそれを参考にされるとよいでしょう。

(エ)休業損害証明書の作成方法

給与所得者(会社員)の方は、「休業損害証明書」の書式を会社に提出して、作成してもらいましょう。
休業損害証明書は、休んだ日数の記載欄や事故前3か月の収入の記載欄があり、これを会社に記載してもらうことで具体的な休業による損害を証明するものになります。有給休暇も休業の対象になります。
休業損害証明書については、事故前年の源泉徴収票も忘れずに添付しましょう。
家事従事者(主夫・主婦)の方で休業損害を請求する場合は、世帯全体の住民票を提出します。
個人事業主の方の場合は、確定申告書(控)を提出します。

賞与の減額があった場合は、「賞与減額証明書」を会社に作成してもらい、提出しましょう。

(オ)後遺障害診断書の作成方法

完治せずに後遺症が残っている場合、後遺障害の等級認定申請を行うことが出来ます(詳しくは、【治療終了を検討している方向け】後遺障害等級認定申請をしよう。をご覧ください。後遺障害診断書作成時の注意点も記載しています。)
病院又は整形外科の医師の先生に「後遺障害診断書」の書式を持参して、これを作成してもらいましょう。
作成料は5000円~1万円程度です。接骨院の先生はこれを作成できませんので注意が必要です。

ここでは相手方が無保険の場合を想定していますが、任意保険会社があるケースで相手方任意保険会社が自賠社も含めて一括対応している場合は、後遺障害等級の被害者請求には一括解除が必要です。一括解除するには、相手方任意保険会社に直接被害者請求する旨の連絡すれば、解除してもらえます。

(4)その他の書類の集め方

(ア)印鑑証明書の発行

各市区町村の市民課の窓口で印鑑証明書を申請して、発行してもらえます。
印鑑登録自体をしていない方は、まずは各市区町村で印鑑の実印登録を行い、それと同時に印鑑証明書を発行しましょう。
コンビニエンスストアにおける証明書の交付サービスを行っている市区町村では、マイナンバーカードがあればコンビニでも発行できます。

(イ)人身事故証明書入手不能理由書(事故が人身扱いになっていないケース)

事故当時は負傷に気づかずに事故が「人身事故」になっておらず、「物損」扱いになっているケースがあります。
どちらの扱いになっているかは、事故証明書の右下の欄の記載が「人身事故」となっているか、「物件事故」となっているかでわかります。
その場合、自賠責保険に請求するためには、「人身事故証明書入手不能理由書」を提出する必要があります。
この書式は自賠責保険から入手することができます。
同理由書には、理由を記載する欄があります。いくつか項目が挙げられているので、該当する方はこれに丸をつければ大丈夫です。
ただし、項目が「受傷が軽微で短期間で治療を終了したため」というのもあります。実態は重症である場合、これに丸を付けると後で争いになることがあるため、注意が必要です。たとえば、事故後、人身切替を警察に依頼したが、事故の相手方が協力してくれなかったという事情がある場合は、それを記載したほうがよいでしょう。

事故の後日、警察署に診断書をもって人身切替の依頼をすると、事故の相手方と一緒に日時を合わせてきてくださいと言われます。相手方が協力してくれない場合、切替手続が難しいことがありますので、そのような場合に「人身事故証明書入手不能理由書」で自賠責に請求できます。

(ウ)レントゲン・CT・MRI画像の入手方法(後遺障害の等級認定申請する場合)

自賠責保険に後遺障害の等級認定申請を行う場合、治療中に撮影したレントゲンなどの画像データの提出が必要になります。
レントゲン・CT・MRIなどの画像を、病院にお願いして交付してもらってください。DVDなどのデータで交付されることが一般的です。
なお、あくまで「借り受けた」ケースでは、自賠責保険の請求が終わったら、病院に返却が必要です。

自賠責保険への書類の提出方法

自賠責保険に提出する書類が揃ったら、被害者請求の場合は相手方の自賠責保険会社に郵送で提出すればOKです。
もし不足書類がある場合、後日、自賠責保険会社の担当者から連絡がありますので、指示された書類を追完しましょう。
提出が無事に終わると、自賠責保険会社から請求を受け付けた旨の通知が送られてきます。
提出された書類の審査に多少の時間を要しますが、審査が終わり問題なければ、保険金が指定口座に支払われます。

被害者請求で自賠責保険から保険金が支払われた場合でも、賠償額が不足している場合、不足分を相手方に請求することができます。自賠責保険はあくまで限度額のある定額の保険支払制度のため、法的に加害者が払わないといけない金額に満たないことが少なくありません。

自賠責保険の保険金の支払に不服の場合

(1)異議申立てを行う

保険金の支払認定、例えば、後遺障害等級認定申請に対して「非該当」の判断がされた場合や納得のいく等級が認定されなかった場合、異議を申し立てることができます。
異議申立ての方法は、異議申立理由書に理由を添えて自賠責保険に提出すれば、再審査されます。
ただし、ただ不服であるということを述べても結論は変わらないため、追加の立証資料(特に医証)が必要になります。

(2)自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理を申し立てる

1回限りの利用となりますが、一般財団法人である自賠責保険・共済紛争処理機構に対して紛争処理申請ができます。
紛争処理申請書、証拠書類等を提出して申請します。

(紛争処理の申請について)
一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構
http://www.jibai-adr.or.jp/enterprise_04.html

(3)訴訟提起する

最終手段として、加害者である相手方に対して、相当な損害の賠償を求めるには裁判所に訴訟提起することになります。
自賠責の判断に裁判所は拘束されないため、自賠責の認定した結果とは異なる結果になる可能性があります。

自賠責保険への請求も時効があります被害者請求の場合は、原則として事故日から3年となります。後遺障害については症状固定日から3年となりますが、後遺障害を除く損害については事故日から3年で時効になるため注意が必要です。
諸事情により、時効期間内に請求ができない場合、自賠責保険会社に時効中断申請書を提出する方法を検討しましょう。


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