交通事故で被害者に重度の後遺障害が残存した場合、生命維持のためには介護が必要なケースがあります。
家族が被害者のために自分の時間を削り介護するケースや、デイサービスなどの有料介護を依頼するケースもあります。
介護が必要となった場合に、介護費用の請求が認められるケースやその額はどのように考えられているのでしょうか。
ー 目次 ー
介護費用の請求が認められる事例
(1)医師の指示の有無又は症状の程度
介護費用の請求については、具体的な介護の必要性がなければなりません。
医師の指示があれば認められる傾向にあります。
医師の指示がない場合、被害者の症状の程度、生活状況、必要とされる介護内容等から判断されることになります。
介護費用が認められているケースには、以下のような傷病を被害者が負ったものがあります。
・脳挫傷等による遷延性意識障害
・頭部外傷による高次脳機能障害
・頚髄損傷による四肢麻痺、両下肢麻痺、排尿・排便障害
(2)認められている事例と認められなかった事例
後遺障害等級1~2級であれば比較的認められやすい傾向にあります。
3級以下でも認められているケースはありますが、歩行不能など自分だけでは生活が困難なケースであり、積極的な立証が求められると思われます。
また、高次脳機能障害の後遺障害が残存したからといって、必ずしも介護費用が認められるわけではありません。
たとえば、次のケースでは判断が分かれています。
(認めている事例)
仙台地裁平成28年9月29日判決
高次脳機能障害5級の事案(右拇拇趾MP関節の機能障害の12級12号と併せて、併合4級)において、日常生活動作は一応自立していること、稼働もしていることを考慮に入れながらも、必要とされる介護の具体的な内容からは、随時の看視ないし声掛けが必要な程度であるとして、1日あたり2000円の介護費用を認めた事例。
名古屋地裁平成26年12月8日判決
高次脳機能障害5級の事案(嗅覚脱失も併せて併合4級相当)において、被害者が肉体的にはほぼ自立しており、常時介護の必要な状態とは認められないとしながらも、外出時には看視が必要であり,日常生活についても随時看視が必要な状態にあると認められるとして、1日当たり3000円の介護費用を認めた事例。
(否定した事例)
東京地裁平成26年1月28日日判決
高次脳機能障害の事例で、7級に該当すると認定しながらも、食事、服薬、更衣、外出、入浴等の日常生活の場面で第三者の見守り・援助が必要であるとの主張を認めず、将来介護費を否定した事例。
東京地裁平成24年8月24日判決
脳外傷に起因する高次脳機能障害(5級2号相当)の事案で、被害者が本件事故後相当回復をし,常時介護が不要なレベルに達したとみるのが相当であること,将来に渡る常時介護が必要であることを認めるに足りる証拠はないとして将来介護費を否定した事例。
高次脳機能障害5級でも上記東京地裁平成24年判決では否定されていますが、被害者が事故後改善傾向にあったことが考慮されたものと考えられます。具体的な介護を必要とする身体状況や介護内容の立証が必要となるものと思われます。
なお、介護費用が認められた上記仙台地裁の事例では、介護内容について「起床時の声掛け、服薬管理、出かける際の持ち物の確認、通院付添い、運転時の道案内など」が考慮されています。
認定される介護費用について
(1)近親者介護と職業人介護での介護費用
近親者介護か、職業付添人介護かで介護費用額が変わってきます。
損害賠償額算定基準(いわゆる赤い本)では、近親者付添人は1日8000円、職業付添人は実費全額と目安が記載されていますが、必要とされる介護の内容で認定される金額は変わります。
近親者介護のケースでは上記裁判例のとおり、必要とされる介護の内容や要する時間によっては日額2000円~3000円となることもあります。また、職業付添人については、おおむね1万~3万円の範囲内で認められている傾向にあるようです。
(2)近親者介護で足りるか、職業人介護が必要か
裁判例の傾向としては、実際に近親者や家族が介護している場合は職業付添人を前提とした介護費用額を否定し、他方で職業付添人を実際に利用しているケースでは、職業付添人の介護費用を認めているように思われます。
もっとも、近親者介護であっても将来的に職業付添人の介護へと移行せざるをえないケースもあります。近親者が高齢となり、介護の負担が大きくなるケースなどです。
このような場合、一定期間は近親者介護を前提とした介護費用、その後は職業付添人を前提とした介護費用として認定されることがあります。
○残存した後遺障害の程度
○必要とされる介護の内容・程度
○近親者(介護実施者)の年齢・身体状況
○近親者(介護実施者)の就労意思・予定・状況
○その他家族の介護の可能性(支援体制)
以上のような要素を総合的にみて、職業付添人を前提とした介護費用が認められるか判断されることになるでしょう。
介護費用が認められる期間についても、健常者の平均余命までか、それよりも短いのかという点で争いになることがあります。これに関連して、定期金賠償という支払方式もあります。
また、入院付添費についてはこちらで解説しています。
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