【過失割合の基本】交通事故での過失割合の争い方

過失割合は感覚的な争いではない

交通事故において過失割合の交渉は、「自分は被害者だ」という感情論だけで主張しても効果的ではありません。
客観的な事故態様を立証して、具体的な行為に過失が有ることを立証しなければ、過失割合は変わらないでしょう。

ー 目次 ー

過失割合はどのようにして決まるか

(1)交通事故における過失とは

交通事故における「過失」とは、運転行為における注意義務違反がこれに当たります(歩行者除く)。
自動車の運転については、道路交通法という法律によって、細かく運転行為に関するルールが定められています。
そのため、運転行為が基本的には道路交通法上のどの条文に違反するか、ということが過失を根拠づけるものになります。
たとえば、複数車線がある道路で、同一方向に進む隣の車線の先行車両がウインカーも点灯せずに車線変更してきて事故が発生した場合は、車線変更した車にはどのような過失が有るでしょうか。
道路交通法上は以下の条文が問題となります。

道路交通法26条の2
1 車両は、みだりにその進路を変更してはならない。
2 車両は、進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは、進路を変更してはならない。

道路交通法53条1項
車両の運転者は、左折し、右折し、転回し、徐行し、停止し、後退し、又は同一方向に進行しながら進路を変えるときは、手、方向指示器又は灯火により合図をし、かつ、これらの行為が終わるまで当該合図を継続しなければならない。

つまり、車線変更した車は、後方車両の速度又は方向を急に変更させる運転行為をした点で道路交通法26条の2違反に、同一方向に進行しながら進路を変更したにもかかわらずウインカーの合図をしなかった点で、道路交通法53条1項違反をしていることになります。
これが具体的な車線変更した車の過失となります。法令に違反しているということですね。
交通事故の裁判などでは、具体的な道路交通法上の根拠を示して、過失を主張することになります。

過失の意味を正確に理解することが大切です。

(2)過失割合の判断基準

それでは具体的な過失の中身がわかったところで、双方の割合はどのように決まるのでしょうか。
実務では、判例タイムズ社が発行する別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」」という書籍に、事故の類型ごとの過失割合が記載されており、これを参照して判断されています。
裁判において、同過失割合の類型表が証拠として提出されることも少なくありません。

どのように類型化して過失割合が判断されているかという点については、以下の事故を例に参考にしてください。

過失が有る事故状況図


これは実際にあった事故状況について、弊所で図面化したものになります。
信号のない交差点で、直進車両同士が出会い頭衝突をした事故です。
双方の道路はほぼ同じ程度の幅員があり、一時停止標識もありません。
この事故類型について、参考になる別冊判例タイムズ上の過失割合の表示については次のとおりです。

【基本速度】※左方車:右方車同程度の速度減速せず:減速減速:減速せず
基本過失割合40:6060:4020:80
【修正要素】
左方車の著しい過失+10+10+10
左方車の重過失+20+20+20
見とおしがきく交差点-10-10-10
夜間-5-5-5
右方車の著しい過失-10-10-10
右方車の重過失-20-20-20

まず、【双方の速度】によって、基本過失割合が異なります。同程度の速度の場合に左方車の過失が少ないのは、道路交通法36条1項1号で左方車優先の原則が規定されているためです。【減速】は通常の制限速度より明らかに減速がしていることが必要で、危険を感じて急ブレーキをかけたことは減速にあたりません。

第36条1項
車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、次項の規定が適用される場合を除き、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に掲げる車両等の進行妨害をしてはならない。
一 車両である場合 その通行している道路と交差する道路(以下「交差道路」という。)を左方から進行してくる車両及び交差道路を通行する路面電車

基本過失割合をベースとして、過失割合を修正する要素があるか否かを検討することになります。
【著しい過失】とは著しい前方不注視、携帯電話使用やカーナビなどの余所見がこれにあたります。
【重過失】とは酒酔い運転や居眠り運転、無免許運転などがこれに該当します。
【見とおしがきく交差点】は交差する道路の見通しがよい交差点になりますが、見通しがきかない交差点では道路交通法42条1号で徐行義務が規定されています。ここでの基本割合は見通しがきかない交差点であることが前提となっています。
【夜間】が修正要素として右方車に不利になっているのは、夜間であれば前照灯で優先する左方車の接近が右方車としても認識可能であるためです。

上記の事故事案では、同程度の速度を前提とすれば、A:B=40:60が基本となります。修正要素としては昼間の事故であったため、夜間要素の適用はありません。AとBの道路の間には民家があり、見通しはよくないため、「見とおしがきく交差点」の修正要素の適用もありません。
あとは、著しい過失または重過失があることを検討し、修正要素があればこれを適用して修正して過失割合が決まることになります。

上記の事故態様では実際には訴訟で交差点侵入時の速度(B車が減速したか)が争われました。車両の損傷の程度などから、B車の速度がそれなりに出ていたとして、左方優先の原則通り、A:B=40:60となりました。

(3)過失の立証責任

過失という概念は規範的な評価であるため、過失を基礎づける具体的事実(評価根拠事実)を明らかにする必要があります。
これについては過失を具体的に主張する側が立証しなければなりません
交通事故においては、具体的には修正要素の適用があると主張する側が、修正要素に該当する事実の立証が求められます。
具体的な主張をしない限り、考慮されることはありません。

過失の争い方

(1)基本過失割合と修正要素を確認する

まずは今回の事故について、どの類型にあてはまるのかを別冊判例タイムズ38を参照して確認しましょう。
その上で基本過失割合を確認し、修正要素がどのようなものがあるかを確認します。
修正要素に該当しそうな事実がある場合は、具体的な立証方法を検討することになります。

(2)証拠を集めて過失を立証しよう

修正要素などの過失を基礎づける事実がある場合、これを裏付ける証拠を収集することになります。
たとえば速度超過であれば、ドライブレコーダーや現場のタイヤ痕の計測、タコグラフメーターなどが挙げられます。
酒気帯び運転・無免許などであれば、刑事記録を検察庁から取り寄せれば、そこに具体的な供述調書や捜査資料が載っています。
ウインカーであれば、実況見分調書を検察庁から入手できれば、合図の有無や合図を始めた地点などがわかります。
これらの裏付け証拠をもとに、修正要素を適用すると過失割合がいくらになるかということを主張していくことになります。

実際には双方の主張する事故態様が大きく異なっていることも多く、立証は簡単にできるものではありません。
客観的な証拠として、車両の損傷状況があります。この損傷状況からは、何時の方向からの入力であるか、塗料やタイヤ痕の付き方で相手方の車のどの部分が衝突したのかなどを分析して、過失を明らかにしていくことになります。

(3)交通事故の鑑定を行う

交通事故鑑定を行う調査会社があります。費用はかかってしまいますが、調査会社に依頼して車両の損傷状況や道路状況から事故態様を図面化して分析してもらう手法があります。専門的な調査となれば少なくとも数十万円~から費用がかかります。

(4)類似の裁判例を探して利用する

同種の事故態様や修正要素の適用の有無が問題となった裁判例を探して、これを主張の補助として使用する方法があります。
個人の方で裁判例システムを使用することは難しいですが、公共の図書館などでは判例システムを導入しているところもあるため、これを使用するのも方法です。
メジャーな裁判例検索システムは以下のとおりです。

〇判例秘書
○D1-Law.com
○Westlaw Japan
○TKCローライブラリー

基準外の事故類型の過失はどうなるか

別冊判例タイムズ38は、典型的な事故類型は網羅していますが、実際に起こる事故は千差万別です。
そのため、同冊子の事故類型に当てはまらない基準外の事故のケースもあります。
そのような場合でも、過失の基本に立ち返り、道路交通法のどの条文に違反するかを検討することになります。
また、同種の事故態様の裁判例を探して、組み合わせながら、過失割合を立論することも方法となります。

過失に争いがある場合は、示談をする前に弁護士などの専門家に事故態様の分析、立証の可否、修正要素の適用の有無などを見立ててもらったほうがよいでしょう。


こちらの記事も読まれています。