【代車賠償の要件】代車使用が認められないこともあるので注意

後から争いになりやすい代車費用

修理または買替期間中に代車を使用することになりますが、後から争いになりやすいのが代車費用です。
いざ代車の使用が終わった後に、保険会社から支払を拒否されることがあります。
レンタカーの場合、1日あたり5000円以上のレンタル料が発生するので高額な費用が自費負担になるおそれがあります。たとえば、3か月乗り続けた場合、日額5000円としても45万円もの代車費用総額となります。
被害者としては保険会社に当然に支払ってもらえるものだと思っていたところ、突然、多額の代車費用が自己負担となる可能性があるのです。

ー 目次 ー

代車が賠償の対象として認められる要件

(1)代車が賠償として認められる基本的な要件

事故後、車両の修理が完了するまで又は買替するまでの間、代車を使用されるのが一般的です。
代車については、レンタカー会社からレンタルする車と修理工場から借りる車がありますが、どちらも代車という分類に変わりありません。
この代車使用が賠償として認められるには、①代車使用の必要性、②代車の種類の相当性、③代車使用期間の相当性が必要であると考えられています。
つまり、過度な高級車のレンタルや長期間の代車使用については賠償として認められない可能性があるということです。

代車賠償の要件として、代車使用の必要性、代車種類の相当性、代車使用期間の相当性があります。

(2)代車使用の必要性とは

代車の使用は事故に遭った場合に必ず認められるものではありません。
代車を使用しなければならない必要性がないと賠償としては認められないことになります。
たとえば、通勤で使用する必要があったとしても、2台の乗用車を保有している場合、もう1台を使用すればよいので代車を使用する必要性はないことになります。
また、公共交通機関などで移動が代替可能な場合も、やはり代車使用の必要性には消極的に働くことになります。
被害者側にも損害拡大防止義務があるため、車の使用頻度が低く、使用目的も弱いものである場合は、公共交通機関で足りるということになるでしょう。
実際に裁判では、代車使用期間中に、いつ、どのような移動に代車を使用したのか、使用頻度はどれくらいか争いになることがあります。
仕事や業務で使用する目的であれば必要性が認められやすい傾向にあり、買い物などの日常生活で時折使用する程度の目的であると必要性が消極的に働く傾向にあります。
そのため、代車使用の必要性では、他車両保有の有無、使用目的、使用頻度、その他の代替公共交通機関の有無などが要素として重要になってきます。

(3)代車の種類の相当性

代車を使用する場合に、事故車と同等の車でなければならないかという問題があります。
たとえば、高級車のフェラーリが被害に遭った場合、同様のフェラーリをレンタカーとして利用できるかという問題です。
レンタカーとして借りる車両の程度にもよりますが、基本的には過度な高級車(特に高級外車)の場合に、同等の高級車の使用は認められません。あくまで国産高級車の使用料である2万円前後程度が賠償限度として制限されます。
移動手段としての車両について、過度に高額な代車までは使用の必要性が認められないためです。
そのため、高級外車が被害にあったとしても、2万円を超える代車を使用する場合は注意が必要です。
なお、逆に被害車両よりも過度にグレードの低い車両を利用した場合、本来の同格車両よりも安くなった分の差額は請求できるのでしょうか。
これについては以下の裁判例(東京地裁平成28年6月3日判決)では、差額分は請求できないとされています。

東京高裁平成30年12月20日 ベントレーの代車としてアウディの代車を認めた事例
被害者が代車としてアウディを使用した件で、アウディを相手方保険会社側で手配したものであること,それが被害者の強い要望によるものではないこと,ベントレーの代車という扱いであることなどから、アウディの代車使用を認めた。
→高級外車の使用を認めた事例ですが、保険会社の方で用意したという特殊事情が考慮されていると思われます。

名古屋地裁平成29年9月15日 ベンツSクラスの代車としてベンツSクラスを否定した事例
被害車両と同じベンツSクラスを代車として使用したケースで、車両使用目的が主に日常生活(買物や子供の送迎等)のためであることに照らし、日額3万9960円のベンツSクラスを使用する必要性を否定。国産高級車を使用する限度(日額2万円)で代車費用を認めた。
→被害車両が高額な外車であった場合でも、使用目的に照らしてあえて同型の高級外車を使用する理由に乏しければ、国産高級車の日額限度レベルに賠償範囲としては収まる傾向にあると思われます。

東京地裁平成28年6月3日  使用した低グレードの車両と相当なグレード車両との差額分の請求を否定した事例
代車として使用した車両が被害車両に比べて低グレードであったとして差額分を請求した事例で、実際にレンタカー使用契約に要した費用相当額が賠償の対象とされるとし、仮定上のレンタカー使用契約による抽象的損害計算の方法による請求を否定した。
→代車費用は実損害を補填するものであり、仮定上の損害の請求は否定的になります。
 被害者としても損害拡大防止義務があり、低額の代車で足りたのであれば、高額な代車を使用する必要性がなかったということにもなるでしょう。

(4)代車使用期間の相当性

代車の使用が認められる期間は、修理相当期間又は買替に要する相当期間となります。
ここで注意が必要なのは、実際に修理に要した期間だとしても、過度に長い修理期間の場合は、一部使用が否定されることがあります。例えば、部品取り寄せのために3か月要した、修理工場が忙しくて修理完了が大幅に遅れたとしても、修理全期間の代車使用が直ちに認められるとは限りません。
あくまで合理的な修理相当期間が、代車使用の相当期間として認められるにすぎません。
車両の損傷の程度によるため、一律に相当期間を決めることはできませんが、おおむね代車使用期間が3週間を超えると争いになってくることが多いように思われます。
全損の場合の買替相当期間としても1か月程度とみられる傾向にあるかと思います。
細かな話になりますが、修理期間の考え方のひとつとして、保険会社が採用している指数という各修理項目に要する作業時間の目安があり、これから形式的に修理期間を算定する方法があります。
また、修理が完了したにもかかわらず、仕事が忙しく自車を引き取りにいかずに代車使用が伸びるケースがあります。このような場合は被害者の事情により代車使用期間が伸びていることから、その部分は自己負担となるでしょう。

大阪地裁平成30年8月23日判決  全損の場合の買替期間相当として、1か月程度の代車使用相当期間を認定
「代車使用相当期間は,被告車が全損であることからすれば買替にかかる期間を念頭におくべきであり,長くとも1か月程度と解される。」

代車を使用する際に注意する点

(1)レンタルする車は保険会社に確認をとっておこう

代車としてレンタルする車については、あとでそのグレードが争いにならないか、保険会社に確認をとっておくのが無難です。裁判例によっては、保険会社がレンタカーを用意していることから後でそれを争うことは許されないとしているものがあります。
被害にあった自分の車よりもグレードの高い車を使用する場合は特に注意が必要です。

(2)修理期間が長引きそうな場合は工場代車も検討を

修理が長引きそうな場合、修理工場によっては無償で代車を貸してくれるところがあります。
その場合、レンタカーから工場代車に切り替えるのも方法です。
また、工場代車で有償の場合でも、1日あたり3000円程度のところが多いので、レンタカーを乗り続けるよりも低廉な金額に抑えることができます。

(3)修理開始が遅延しそうな場合、代車使用の開始時期は要検討を

部品の取り寄せなどが必要で、修理開始までしばらく時間を要する場合は、代車使用をするかは要検討です。
たとえば、被害が軽微で自走できる状態の場合、部品が届くまで自走するという方法論も考えられます。

保険会社が代車費用を払ってくれない場合の対処方法

(1)レンタカー会社からの請求には払わないといけないか

レンタカー会社からは利用した代車費用の請求がきます。
これについては直接保険会社に請求してくれと言いたいと思いますが、あくまでレンタカー会社との関係では、使用した方がレンタル料金の支払義務が生じます。
そのため、レンタカー会社に対しては利用代金を支払わざるをえないでしょう。
工場代車などの場合は、代車費用を免除してくれるところもありますので、確認してみるのも一つです。

(2)法的な手段をとる

保険会社が支払いを拒否する場合、最終的には代車使用料の支払いを求めて、加害者を被告として訴訟提起を行う方法があります。
保険会社が支払いを拒否するということは、前述のとおり、代車使用の必要性、代車種類の相当性、代車使用期間の相当性のいずれかに争いがあると思われます。
そのため、それぞれの要件を満たす事情の証拠を集めてから、具体的に訴訟で争うことが望ましいと考えられます。
代車使用の必要性であれば、家族で保有している車両台数や使用目的・頻度、代車を使用しなければいけない事情を裏付ける資料(住民票、車検証、仕事の内容を示す雇用契約書、近くに公共交通機関がないことを示す地図、最寄り駅までの距離を表示した資料)を準備することになります。
代車種類の相当性であれば、そのグレードの車両を使用しなければならない事情(仕事で利用しなければならないということであれば、職種、仕事内容、具体的な利用態様などを裏付けるもの)を集めておく必要があります。
代車使用期間の相当性であれば、保険会社からの全損通知の日付がわかる資料、修理の入庫日・完了日がわかる資料、修理期間を要した事情(修理工場の説明書)などを用意することが考えられます。

代車使用期間にが争いになった場合、事故後の保険会社との交渉経過なども相当期間に関与してくることがあります。
保険会社からの全損に関する通知文や連絡日付などはメモなどで保管しておきましょう。


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