【慰謝料の増額事由】交通事故で基準以上の慰謝料増額が認められるケース

慰謝料が増額される場面を知ろう

悪質な事故で重大な被害を被った場合、定型的に算出される慰謝料では心情的に受け入れ難いものがあります。
そこで、慰謝料が増額されるケースというのはどのような事由があるときなのでしょうか。

ー 目次 ー

慰謝料の算定と増額事由とは

(1)慰謝料の算定基準

交通事故における慰謝料については、自賠責においては1日あたり4300円、任意保険会社では内部基準に基づいて定められていますが、加害者が負う賠償額はこれに拘束されるわけではありません。
裁判所が判断するときは、多くが損害賠償額算定基準(いわゆる「赤い本」)といわれる基準が採用されています。
いずれの基準でも通院日数や治療期間を目安に計算され、定型化されています。
ただ、これはあくまで目安に過ぎず、裁判官の自由心証に基づいて、裁量的に金額が決められることになります。

(2)慰謝料の増額事由

慰謝料は裁判所が裁量的に決めるとしても、特別な事情がない限りは、定型的に賠償額が算定されています。
定型的な賠償額を超える慰謝料が認められるには、事故の悪質性や加害者の極めて不誠実な態度などの、通常の交通事故で受ける精神的苦痛を大きく上回る事情が必要となります。
裁判例からは、以下のような要素があるケースで慰謝料の増額が認められています。

・加害者の故意による事故の事案
・飲酒運転、ひき逃げ、無免許運転、著しい速度超過等の運転行為が悪質な事案
・事故態様が凄惨な事案
・事故後の加害者の態度や行動が悪質な事案

交通事故は基本的には過失によって引き起こされるものですが、飲酒運転やひき逃げ、無免許などは法令順守する意思がなく、故意に事故を引き起こしたものと実質的な内容は同等です。そのため、被害者が受ける精神的苦痛は、「わざとではない」過失の交通事故に比べて、より大きいものと考えられます。

事故態様も慰謝料増額要素にかかわってきます。
飲酒運転、ひき逃げ等の悪質な事故態様も影響します

(3)増額事由が検討・考慮された裁判例

大阪地裁令和2年3月6日判決   死亡した事実を知らせない加害者の対応
死亡した被害者の親に対して、加害者が事故後1年7か月以上にわたり、本件事故により被害者が死亡した事実を知らせかった事案で、死亡を知る術がなかったことが精神的苦痛の度合いを高めていると認定。
→特殊な事例にはなりますが、被害者の死亡という重要な事実を親に知らせなかったという消極的な不作為が増額事由になっています。

大阪地裁令和2年2月28日判決 事故態様が凄惨で入院を繰り返したケース
被害者が事故後,40分以上も右足を大型貨物車両に轢過されたままの状態となり、受傷内容も凄惨なものになったことや、一度は足の切断が検討されたり、5度にわたる入院を余儀なくされたりしたことなどから、基準以上の入通院慰謝料額を認定。
→被害者が精神的苦痛を受けている時間が長時間に及んでいたことから凄惨な事故態様とされています。そのため、事故直後に被害者が受けていた精神的苦痛の長短も増額要素に関わってくると思われます。

大阪地裁令和2年2月21日判決 同乗者が事故後現場から逃走したケース
逃走時に車両を運転していたのが被告ではないとしても,被告が救助や警察への通報を行わずに現場を立ち去ったことは,慰謝料算定などの点で不利に評価されてもやむをえないと判示した。
→同乗者という立場であっても、救護・警察への通報などのしかるべく対応をしていない場合は、ひき逃げ同様に慰謝料の増額事由となりえます。

大阪地裁令和2年2月7日判決(否定) 葬儀に参列しなかったことが増額事由には該当しないとしたケース
加害者やその使用者が葬儀に参列せず、事故の約1か月後に謝罪しただけで、刑事裁判においても遺族らに挨拶しなかったこと等は慰謝料増額事由とは認められないとした。
→加害者が道義上、遺族への謝罪や被害者へのお見舞い等するべきではありますが、賠償の増額要素という点では、「~~をしなかった」という不作為は、よほどの事情がない限り、消極的になるかと思われます。

大阪地裁令和元年12月20日判決 凄惨な事故状況、加害者側が謝罪対応なしのケース
加害者を使用する会社の役員が、遺族の謝罪の求めに理由もなく応じていないことに、誠意がないと感じることにも無理からぬものがあるとして、近親者固有の慰謝料を認定。

大阪地裁令和元年10月29日判決 居眠り運転のケース
加害者が事故の直前、仮睡状態に陥っていたものと考えるのが自然であり、過失は重大であるとして、これを慰謝料の増額事由として実質的に認定。
→居眠り運転のケースは重大な過失があると捉えられます。


慰謝料の増額事由の立証方法

(1)ひき逃げ、飲酒運転の場合

ひき逃げ、飲酒運転などの場合、加害者が何らかの刑事処罰を受けている可能性が高いと考えられます。
すなわち、加害者が起訴されている場合、被害者は刑事記録を検察庁から入手することができます。
刑事記録には、加害者の供述調書や飲酒検知に関する捜査書類などが含まれています。
そのため、これをもってひき逃げや飲酒運転の立証が可能になってきます。
警察に送検先の検察庁や送致年月日、送致番号などを確認して、検察庁に起訴不起訴の有無を確認しましょう。
その上で起訴されている場合は、記録を謄写してこれを入手することで証拠化することができます。

(2)著しい速度超過

ア タイヤ痕からの速度推測

著しい速度違反で加害者が刑事処罰を受けている場合は、(1)と同様です。
加害者が不起訴になった場合は、検察庁から実況見分調書の開示を受けられます。
この実況見分調書に加害者の車両のタイヤ痕が残されている場合、タイヤ痕の長さから制動開始時(ブレーキ開始時)の速度を割り出すことができます。
そのため、タイヤ痕から速度の立証を検討しましょう。

イ タコグラフからの速度推測

また、トラックなどの場合は、タコグラフという「運行記録計」が搭載されていることがあります。
運行時間と速度の変化がこれに記録されているため、これを見れば、事故当時のおおよその速度がわかります。
そのため、この開示を求めるというのも方法でしょう。

ウ ドライブレコーダーからの映像解析

ドライブレコーダーが搭載されている場合は、映像から速度などを割り出す鑑定会社のサービスを利用して、推定速度を割り出す方法があります。

(3)事故態様が凄惨な場合

事故により加害者が刑事処罰を受けている場合は(1)のとおりです。
刑事記録の中に、警察が事故当時に撮影した写真撮影報告書などの生々しい資料がありますので、これから被害の重篤さを証明していくことになります。
その他、診断書や診療録などの医療記録からも、事故当時の緊迫さや被害の重大さを推認させることができます。
また、被害者の方の陳述書を作成し、事故の状況やその時の身体状況、苦痛などを具体的に説明するのも効果的です。

(4)事故後の加害者の態度や行動が悪質な場合

具体的に加害者の行動や言動を、証拠化する必要があります。
加害者からの手紙・メール・電話などの証拠がないか、検討することになります。
たとえば加害者から暴言を吐かれたり、脅されたりした録音データ、メールなどがあれば証拠の一つになります。
証拠化が難しい場合、できる限り、当時の加害者の行動を具体化して説明する陳述書を作成することになります。

特に争いが出やすいのが、加害者側の不誠実な対応のケースです。死亡に準じる重大な事故で、加害者が積極的に悪態をつくなどの行為がある場合は増額要素として考慮されやすいですが、消極的な不誠実な対応(連絡があまりなかった、謝罪が1度しかなかった、名前を間違えられた等)の場合は、それのみでは考慮されにくいと考えられます。

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