【ご家族を亡くされた方向け】死亡事故で必要な相続手続と賠償の内容

死亡事故は大変な手続きが多く、個人で進めるのは負担が大きい

家族を失った心痛の最中、葬儀をはじめとして故人の身辺整理など行わなければならない手続が少なくありません。事故の場合は警察や検察庁からも事情聴取があり、保険会社からも準備する書類の要求があります。
個人の負担が大きいため、専門家のサポートを求めることを推奨します。

ー 目次 ー

相続人の調査が必要に。損害賠償請求権の相続が発生する。

(1)死亡された方の損害賠償請求権は相続の対象となる

交通事故により死亡された方には、加害者に対する損害賠償請求権があります。具体的には治療費、慰謝料、死亡逸失利益などを内容としています。
かつては、被害者の慰謝料請求権について、被害者の請求意思の表明の有無で相続の対象となるか変わる考え方もありました。
もっとも、最高裁昭和42年11月1日判決で「(被害者は)損害の発生と同時にその賠償を請求する権利すなわち慰謝料請求権を取得し・・・(中略)損害の賠償を請求する意思を表明するなど格別の行為をすることを必要とするものではない。そして、当該被害者が死亡したときは、その相続人は当然に慰謝料請求権を相続するもの解するのが相当である」として慰謝料請求権が被害者の請求意思の表明がなくとも相続の対象となることが示されたことで、現在では相続されることが前提になっています。

(2)損害賠償請求権の相続の手続

ア 相続人の範囲

損害賠償請求権は、被害者の相続人の方が取得することになります。
そのため、賠償請求をする前提として、相続人の確定という手続が必要です。
相続人の範囲と順位は次のとおりです。

常に相続人 被害者の配偶者
第1順位  被害者の子
第2順位  直系尊属
第3順位  兄弟姉妹

例えば、被害者に配偶者と子供がいる場合は、配偶者と子供が相続人になります。
被害者に配偶者はいるが、子供がいない場合、配偶者と被害者の直系尊属(父母、祖父母等)が相続人になります。
被害者が独身で子供もいない、被害者の直系尊属もいない場合は、被害者の兄弟が相続人になります。

イ 法定相続分の割合

各相続人の法定相続分については次のとおりとなります。

相続人が配偶者と子の場合        各2分の1 (子が複数いる場合は、2分の1をさらに頭数で割る)
相続人が配偶者と直系尊属の場合  配偶者が3分の2 直系尊属が3分の1
相続人が配偶者と兄弟の場合    配偶者が4分の3 兄弟が4分の1

ウ 相続人を確定するための手続

加害者に遺族が損害賠償請求するためには、相続人を確定させる必要があります。
相続人を確認するためには、①被害者の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本、②相続人の方の現在の戸籍謄本などを集める必要があります。
戸籍は婚姻などで新たに編成されるため、従前の戸籍まで辿らなければ、養子縁組などの有無がわからないためです。また、相続人となりうる方も死亡していた場合は、代襲相続の問題があるため、相続人が現在生存していることを証明するためにも、相続人の現在の戸籍謄本が必要となります。
まずは亡くなられた方の最後の戸籍がおかれている市町村の窓口で、相続調査していることを説明して、原戸籍から現在までの戸籍を取得したいとお願いすれば、その市町村が保有している戸籍謄本を出してもらえます。
その上でその戸籍を読み取って、どこの市町村から転籍している確認するとともに、養子縁組などしていないか記載をチェックします。
転籍されている場合は、転籍元の市町村の役場に戸籍謄本の申請し、さらにこれを読み取って被害者の出生の記載がある除籍または改正原戸籍まで集めることになります。
他方で、推定相続人となる方の戸籍も辿り、最終的には相続人となる方が現在生存していることの戸籍をもって、相続人の確定作業が終了します。

相続調査で住所の知らない相続人が出てきたらどうするか?
→戸籍の附票を取り寄せると、相続人の住所地が判明するので、そこから連絡を取りましょう。

エ 遺産分割協議を行う

被害者の損害賠償請求権は、原則として相続分にしたがって各相続人が取得します。
そのため、相続人が確定すれば法定相続分は明らかになるため、必ずしも遺産分割協議をする必要はなく、法定相続分の割合で加害者に対して損害賠償請求をすることができます。
他方で、遺産分割協議で損害賠償請求権をすべて相続する方を決めることもできます。
加害者に対する損害賠償請求を誰がどのような形で行うかは、相続人間で調整をしてもよいでしょう。
遺産分割協議を行った場合は、遺産分割協議書を作成します。
たとえば、相続人の1人が損害賠償請求権を取得するとなった場合、以下のような条項を入れる方法が考えられます。
事故証明書を確認して、可能な限り事故を特定して相続の対象としましょう。

第〇条 被相続人の下記交通事故における損害賠償請求権は、相続人○○○○が相続する。
            記
 事故日  2021年〇月〇日●時●分
 事故場所 東京都中央区●●町●●
 加害車両 ●●運転の自家用普通乗用自動車(品川●●・・・※ナンバー)
 被害車両 被相続人運転の原動機付自転車(横浜●●・・・※ナンバー)

訴訟を行う場合は、戸籍謄本と遺産分割協議書があれば十分ですが、保険会社と示談交渉を行う場合は保険会社から相続人の「印鑑証明書」を求められます。また、保険会社によっては相続人代表として「委任状」を求められることがあります。
そのため、遺産分割協議書は実印で押印し、相続人の印鑑証明書もあわせてもらっておいたほうがよいでしょう。
なお、亡くなられた方の損害賠償請求権とは別に、近親者にも固有の慰謝料請求権が発生します。これは相続分に関係のない請求権で、遺産分割の対象にもなりません。

死亡事故の特殊な損害として、葬儀費用や死亡逸失利益がある

(1)葬儀費用

葬儀費用については相当な範囲で認められます。すべての葬儀費用が認められるわけではありません。
実務的には、損害賠償額算定基準(赤い本)を基準として150万円が上限の目安となります。
150万円を下回る場合は、実際に支出した金額が限度となります。
葬儀関係費用としては、墓誌彫刻、墓石代、墓地使用料、仏壇購入費、仏具代などが裁判例で認められています。
なお、香典として受領した金銭についてはこれを控除しない反面、香典返しは葬儀費用としては認められません。
葬儀費用を請求するためには、葬儀に要した領収証等は項目を明らかにしながら保管する必要があります。

(2)死亡逸失利益

ア 死亡逸失利益の計算式

死亡逸失利益とは、亡くなられた方が、事故にあわなければ得られたであろう収入についての補償です。
死亡により、生涯で得られるはずの収入(利益)を逸失したという考え方となります。
この損害項目は大黒柱を失ったご家族にとって今後生活していくための貴重な補償になります。
具体的には、次のような計算式で損害を計算していきます。

被害者の基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数のライプニッツ係数

イ 基礎収入の考え方

基礎収入は、被害者の就労による収入であり、不労所得は含まれません(高齢者の場合の年金を除く)。
会社員の場合は、原則として事故前年の年収を基礎収入とします。
個人事業主の場合は、事業収入(申告所得)が基礎となります。ただし、事業規模などによって事業収入の事業主の寄与割合も含めて考えることがあります。
家事従事者(主婦・主夫)の場合は、女性全年齢の平均賃金センサスの賃金額を収入の基礎とします。
無職の若年者・学生の場合、男女別全年齢平均賃金センサスを収入の基礎とします。
無職の高齢者の場合は、就労の蓋然性があれば、年齢別の平均賃金センサスを収入の基礎とします。
なお、年金については老齢基礎年金、老齢厚生年金、障害基礎年金、障害厚生年金は逸失利益の対象となります。

ウ  生活費控除の考え方

生活費控除は、故人が生存していれば生じた経費を損害から控除するという考え方です。
一概には言えませんが、参考までに故人が独身男性の場合は50%、一家の支柱で被扶養者が1名の場合は40%、2名以上の時は30%、女性の場合は30%程度を控除するケースがあります。
年金については、生活費の占める割合が高いとして50%程度となるケースがあります。

エ 就労可能年数の考え方

就労可能年数は原則として67歳までと考えられています。そのため、40歳の方が亡くなられた場合、27年分が就労可能年数として計算対象となります。
また、死亡時に67歳を超えている方の場合、最大で平均余命の2分の1を就労可能年数として死亡逸失利益を請求できるケースがあります。

オ 具体的なケースでの計算例

死亡逸失利益
会社員の男性が30歳で死亡し、事故前年の年収が600万円、家族として妻と子がいた場合

○基礎収入600万円×(1-0.3)×37年のライプニッツ係数=9310万2240円

相続の手続が必要になります。
残されたご家族にとって正当な補償が必要です。

死亡慰謝料の相場

被害者の方の死亡慰謝料は様々な事情を総合的に考慮して決定されます。
そのため、一概にこの金額になるというものではありませんが、裁判を経た場合は次のような傾向にあります。

一家の支柱  2800万円
母親、配偶者 2500万円
その他    2000万円~2500万円


これらは死亡慰謝料の総額であり、遺族固有の慰謝料も含めた金額になります。
一家の支柱とは、主に被害者によって家族が生計を維持している場合になります。

事故後、昏睡状態が続き、1か月後に死亡した場合などは、死亡慰謝料とは別に事故から死亡までの傷害慰謝料も請求することが可能です。

死亡事故で加害者に請求する前に集めておくべき証拠

(1)刑事記録(実況見分調書、供述調書)

死亡事故の場合、事故の加害者は起訴されることがほとんどです。
加害者が起訴されると刑事記録が入手できますので、検察庁に謄写の可否を確認して入手しましょう。
刑事記録の謄写方法は、各検察庁により異なりますが、現在検察庁では全国的に謄写業務の入札募集を行っており、司法協会や弁護士共同生活組合、各弁護士会が直接謄写業務を代行しています。
刑事記録には事故状況の写真撮影報告書や、加害者の供述調書などが記載されています。
事故の実態を把握することで、慰謝料の増額要素の検討、過失を争う方法などが可能になってきます。

(2)請求の根拠となる資料

損害の発生を示す証拠として、事故発生の事実(事故証明書)、治療費(診断書、診療報酬明細書、死亡診断書)、葬儀費用(領収証)、逸失利益(源泉徴収票、確定申告書)などを集める必要があります。
この他に、相続人であることを示す戸籍謄本、遺産分割協議書、印鑑証明書などを集めることになります。

加害者に対して謝罪を要求することはできるか

加害者が悪びれず、遺族に謝罪にすら来ない場合、加害者に強制的に謝罪を求めることはできるのでしょうか。
この点、加害者に法的に謝罪を強制させる手段はありません。
ただ、加害者の不誠実な態度は慰謝料の増額要素として考慮されることになります。

死亡事故では専門家のサポートは必須です

不幸にも事故で家族を失われた方の心中を察するに余りあるものがあります。
相手方と示談の話をすることでさえ、家族を失った心痛から、耐えられないものがあるかと思います。
もっとも、現実的には賠償の話し合いの中で、相手方が過失を争ってくるケースもあります。
死亡事故のケースでは、多くの場合、加害者は起訴されて刑事裁判となるため刑事記録を謄写することができます。
この資料を精査し、生々しい事故現場の状況などを確認するのは精神的負担が少なくありません。
ご家族の方にも仕事や日常生活もあり、亡くなられた方にとってもご家族に多大な精神的な負担をかけるのは本意ではないでしょう。
資料の取得・過失の主張などは専門家である弁護士に委任して賠償交渉は任せましょう。
弁護士に委任することによって、あなたの心の代弁者として法的に相当な賠償を加害者にさせることが可能になってきます。

死亡事故の場合、賠償請求で区切りをつけることが、特にご遺族の方にとっては気持ちの整理という面で大切です。
加害者に対する許せない気持ちは一生をかけても拭えるものではありません。もっとも、どこかで一つの区切りをつけなければなりません。死亡事故にも時効の問題があります。多くの方は加害者の刑事裁判が終わった後、民事で賠償請求を行っています。


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