親権の争いではどのような要素が判断されるか

親権は必ず母親に認められるものとは限らない

離婚に関する話合いで、親権が争いになった場合、最終的には離婚訴訟を起こす必要があります。また、別居に際して子供が連れ去られた場合には、子供の監護者の指定や引き渡しなどが問題になることがあります。争いになった場合、必ず母親が親権を取れるものではありません。
それでは、これらについて、どのような点から裁判所は判断するのでしょうか。

親権争いで考慮される要素について

親権というのは、子供の財産管理権と身上監護権を内包するものです。財産管理権とは子供に代わって契約締結などの財産上の権利や義務を行うことができるもので、身上監護権とは子供の居所の指定などを含む育児に関する権利です。
現在の法制度では離婚後は単独親権となるため、父母間で親権(離婚前は監護権)が争いになります。

子供の親権については、当事者のいずれが監護者として適格なのかという観点から決まります。
具体的には、居住環境、健康状態、養育能力(実績)、経済力、面会交流の許容性、子供との結びつき、子の意思などが具体的に考慮されます。
さらに、母性優先の原則、継続性の原則といった考え方も加味された上で判断されることになります。
考慮要素の中で「経済力」についてはあまり重視されていない傾向にあります。養育費でカバーされるため、収入が少ないことが他方の配偶者にとってそれほど不利にはなりません。
重要なのは、養育能力や養育実績と子供との結びつき・子供の意思にあるといえるでしょう。

母性優先の原則というのは、乳幼児については母性的役割をもつ者との結びつきが不可欠であるという考え方です。子供が小学校に上がり年齢が高くなると、相対的に重要性は低くなる傾向にあります。
継続性の原則というのは、子供と監護者の心理的結びつきを断絶させずに継続することが望ましいという考え方です。別居後、子供の監護に問題なければ、この継続性の原則が重視される傾向にあります。

親権争いは男性は難しいとイメージを持たれる方が多いと思いますが、①同居中は母親が子供の主に養育している、②別居で母親が子供を連れて出ていき、監護の実績がさらに積み重なる、③子供と一緒にいる時間の長い母親に子供は愛着をもちやすい、ことから、母性優先の原則・継続性の原則も全て満たし、母親が親権を取る傾向にあるといえます。
ただ、近年は男性と女性の役割も変わりつつあり、男性が子供の養育を主に見ているケース、子供と父親との心理的結びつきが強いケースなどでは、当然ながら男性が監護者として相当であると判断されることになるでしょう。


男性が「母性的役割」を育児で担うこともあります。

親権の要素の立証方法

親権の要素の立証方法では、次のような方法があります。
・監護の実績(通知表、連絡帳ノート、母子手帳、料理本、旅行写真)
・居住環境(間取り図、賃貸借契約書)
・子供との心理的な結びつき(子供からの手紙)

これ以外にも、養育していた頃のスケジュール(炊事、洗濯、送り迎え、学校との連絡)、面会交流の実施状況などを具体的に説明する陳述書などで立証していくことになります。

送迎も育児のひとつです。

親権争いで注意する点

別居後に子供を相手方に会わせないようにされる方が珍しくありません。
背景には、相手方に対する不信、子供が相手方になついてしまうことへの不安、連絡対応することのストレスなどがあります。しかしながら、子供に会わせないようにするという対応は、親権争いでは不利な立場となります。
千葉家庭裁判所松戸支部の平成28年3月29日判決では、面会交流に非寛容的であった母親ではなく、父親に親権が認められています。

千葉家庭裁判所松戸支部の平成28年3月29日判決
「原告は被告の了解を得ることなく、長女を連れ出し、以来、今日までの約五年一〇か月間、長女を監護し、その間、長女と被告との面会交流には合計で六回程度しか応じておらず、今後も一定の条件のもとでの面会交流を月一回程度の頻度とすることを希望していること、他方、被告は、長女が連れ出された直後から、長女を取り戻すべく、数々の法的手段に訴えてきたが、いずれも奏功せず、爾来今日まで長女との生活を切望しながら果たせずに来ており、それが実現した場合には、整った環境で、周到に監護する計画と意欲を持っており、長女と原告との交流については、緊密な親子関係の継続を重視して、年間一〇〇日に及ぶ面会交流の計画を提示していること、以上が認められるのであって、これらの事実を総合すれば、長女が両親の愛情を受けて健全に成長することを可能とするためには、被告を親権者と指定するのが相当である。
 原告は、長女を現在の慣れ親しんだ環境から引き離すのは、長女の福祉に反する旨主張するが、今後長女が身を置く新しい環境は、長女の健全な成長を願う実の父親が用意する整った環境であり、長女が現在に比べて劣悪な環境に置かれるわけではない。加えて、年間一〇〇日に及ぶ面会交流が予定されていることも考慮すれば、原告の懸念は杞憂にすぎないというべきである。
 よって、原告は被告に対し、本判決確定後、直ちに長女を引渡すべきである。」


この判決は控訴され、東京高裁で母親を親権者を定めるように変更されましたが、実務に与えた衝撃と影響は大きいといえます。
子供に両親の紛争の責任はありません。子供が両親から愛情を受けて育つことは、健全な成長を促す意味でも重要です。感情的なものは抑えて、面会交流は円滑に実施していくことが望ましいと思われます。

男性が親権を取得した裁判例

父親が親権を取得したケースとして次のようなものがあります。
母親の下で暮らす10歳の長女が父親と暮らすことを望んだケースです。

福岡家庭裁判所平成28年3月18日判決
「現在10歳である長女は,両親の葛藤や度々の生活本拠の変化を体験せざるを得なかった中で,精神的な成長をしてきたというべきであるから,親権者についての希望も,相応の判断能力に基づいて述べられたものと認めるべきであり,長女の意思は十分に尊重されるべきである。
 そして,長女の意思を尊重し,長女の意思に従うことが長女の福祉となり,長女の意思に従わないことは,長女に更なる心理的葛藤をもたらすこととなって,長女の福祉に反する結果となるおそれがある。」

また、次のケースでは、別居後に母親の養育意欲が低下し、子供の通学にも影響が出ていることから、父親の主たる監護実績がなくとも父親に監護者が認められています。

福岡家庭裁判所平成26年3月14日判決
「相手方は,別居時までは,未成年者らの主たる監護者であり,特段の問題がなく監護を行っていたものではあるが,別居後は,約半年以上にわたり,未成年者らの監護をもっぱら相手方家族に任せて,自らはほとんど関わっていない状態にあり,監護意欲が著しく低下しているものと認められる。」

実際に裁判では、相手方の監護に問題があることを指摘していくケースは少なくありません。

親権争いは、結局のところ、子供にとってどちらで育てられたほうがよいかというところに尽きます。
そのためには母親の立場でも父親の立場でも、しっかり立証していく必要があります。